急に奏さんが知らない男のひとに思えて息を飲んだ。
いつも冷静な奏さんがいきなり取り乱して、どうしていいのかわからなくて見つめかえす。
「りお、その男の名を答えろ」
「どうして名前なんて……?」
首を横に振った。
「いいから教えろ」
壁を何度も叩き、握った拳から血が出てて。
やめて。
手が傷ついちゃう!
痛め付けるその手にしがみついて止めた。
「やめて奏さん!指の骨が折れちゃうっ!」
「構うなっ!それよりそのガキの名を答えろ!」
「なんで?いきなりどうしたの?わたしなんかしたのっ?」
明らかに怒りの矛先がわたしに向いたのがわかった。
ギラリ
「―――りお。」
背筋が凍るような低くて無機質な声が突き刺さった。



