腕の中で泣き出した赤ちゃんに黒ずくめも躊躇した。 一瞬。 ほんの一瞬だけ奏さんから泣き出した子へ意識が移った。 「かえせ!」 奏さんが一気に間を詰めて黒ずくめの足を払って、ぐらっと傾いだところに手を伸ばし赤ちゃんを奪い返した。 後ろにいたわたしに、 「りお!」 叫んで。 わたしは奏さんの手から、赤ちゃんを抱き取った。 「うにゃ、うにゃあ」 元気に泣くいとおしい、抱きしめた命をもう放さない。