「…………っ」
さっきまで働いていた頭は、急ブレーキをかけて止まる。
体中が痺れる感覚がして、息をするのにも方法を忘れた。
あたしが見えているのは、あの人の胸のあたりだけだけど、顔を見なくても分かる。
扉はキシリと音をたてて揺れていた。
「…メリークリスマス、真白…」
「…とぅ…さん」
空気に溶けるようにして消えた声でもちゃんと届いたようだった。
一歩だけ足を踏み出したあの人は、あたしの頭に手をあてる。
「ただいま…」
その声で、痺れも消えて頭は稼動し始めた。
頭上から伝わる温かさが、あたしの冷えた心を溶かしていく。
――――ずっと欲しかった…
思い出してもらえることもなく凍った“愛”。
「……サプライズ、だ」
先輩があたしを見て笑う。
「違うわ!わしからのクリスマスプレゼントだ!」
師範が否定して叫ぶ。
「父さん……っ」
一体何ヶ月ぶりなんだろうか。
中学に上がってから会うことは無くなったから二年は経っている。
「泣くなよ…」
苦笑いをしてあたしを抱きしめた父さんの体は雪で濡れていた。
それでも冷たさなんて微塵も感じることはなくて。
涙は流れないが気持ちは充分にあった。
「あー、感動するっ!!」
慎汰がわざとらしく鼻を啜る。
先輩も拍手をした。「家族愛は素晴らしい」と言いながら。
先輩たちにとっては、父さんが先輩だ。
これでも、師範の次に偉い人だから。
「さっ、真白先輩!ケーキ食べましょ?」
「うん」
落ち着いたあたしは父さんから離れて席についた。
父さんも笑顔であたしの隣に座る。

![100日愛 [短]](https://www.no-ichigo.jp/assets/1.0.795/img/book/genre1.png)