〜海来 side〜
長く伸びた、二つ並んだ影が、あたしたちの前を歩く。
少し空いたその隙間を見て、
(ちゃんと伝えておかなきゃ)って思った。
隣にいるのは愛しい人。
一度はあたしのものだった。
あたしもまた、彼のもの。
それでも今は、叶うことのない思い出話。
彼は、もうあたしを愛してはくれない。
愛すべき人はあたしではない。
「海来?」
心配したような声が耳に届いて見上げる。
それはたぶんあたしがずっと下を見ていたからだろう。
「どうした?」
「ううん、何でもないよ」
前のあたしなら、そう言って彼に寄り添った。
でもそれもできない。
「んで、話ってなんだよ」
自分から「話がある」と誘いこうして一緒に帰っているのだが…
本当は話題を避けつづけてきた。
出来れば言いたくなんかなくて…だけどやっぱり必要なこと。
心の奥のほうで天使と悪魔が戦っていたけれど、そんな対戦は必要なかったらしい。
彼から切り出されてしまったのなら、選択肢もないため逃げ場も失った。
「…ちゃんと、聞いてくれる?」
また下を向いて落とすように言葉を出した。
答えは分かっている。
それでも、自分が傷ついてでも大事なことがあるから…声だけは確かに出した。
「あぁ…」
その静かな返事を聞いて、あたしは意味もなく小さく微笑んだ。

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