「あんな顔、させんじゃねぇよ…」
俺は、一人こんな言葉さえ呟くだけで…
面と向かって言えない。
好きなやつを守りたいと思うのが当然なら、もちろんこん時の俺もそうで…。
今の村野も、そういうことなのか?
大野が俺に、
『サッカー部、鎌瀬も頑張れ』
って言ってくれたあの日。
知らない笑顔に俺は立ち尽くすしかできなくて、
こんな俺にそんなこと言ってくれるのが我ながら嬉しくて…。
こいつを自分のものにしたい―――
本気で、本気でそう思った。
隣にいてほしくて、
ただ俺に笑いかけてほしくて……。
あんなに嫌だった女子に励まされるとは心底思ってなくて。
顔が赤くなるのに身を預けていた。
でも、強がりのあいつの感情を解放させてやることが出来るのは、俺なんかじゃなかった。
大野がなぜか襲われかけた日。
あいつは一人で三人の男等を倒して、へなへなと座り込む。
キレのいいその動作で目を奪われた。
俺はそれしか考えてなかった。
陵本が初めて大野の様子がおかしいことを声にだしたけど、
一番最初に気づいたのは隣の村野だった。
唇を噛み締めながら、一度大野に伸ばしかけた手を引っ込めた。
それに気づいて、俺はそこで初めて大野に目を向ける。
涙目なのに、決して流さないその強さなんか見たくなかった。
そんなのいいから、泣けよって思った。
誰もがたぶん俺と同じ気持ちで、大野を安心させて目に留まる雫を落とそうとするけどダメだった。

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