「師範、ほんと?」
「あぁ。生徒たちに稽古もつけてくれたよ」
「父さん……が……」
師範が立ち止まるあたしをチラリと見る。
お母さんと父さんが離婚したことを知っていて、あたしたちが最近顔を見合わせていないことも分かっている師範。
「真白も呼ぼうと思ったが、ノリに止められたよ」
「何で?」
「分からないが、寂しい父親の顔だったぞ。あいつも立派に育ったもんだ」
師範は優しく笑いかけてくれた。
(会いたい…)
それがあたしの本音だ。
でも、あたしが父さんに会うことでお母さんがいい気持ちになることはない。
そこを考えると、あたしは動けない。
お母さんも、父さんも傷つけたくはない。
でも、どうしようもできない……。
「そこでお前に、伝言だよ」
「……えっ?」
顔を上げると一枚の封筒が頭上でヒラヒラと舞っていた。
あたしはそれを受け取る。
男としては綺麗な綺麗な字で、丁寧に『真白へ』と書かれていた。
息を止めて、急いで開ける。
綺麗に開けようなんて今は思えなくて、ビリッと音がした。
『真白へ。
最近会えないな?お互い弱いなぁ、俺だってまだ夕南に怯えてるんだから。
気が利かなくて、ごめん。
元気にしてるか?忙しいのは分かるけど、ちゃんと道場に顔を出しなさい。
師範たちも心配している、お前を待っているんだから。
お前ならもう稽古をつけられるくらいの実力は持っているはずだ。
そう師範が言っていたよ。
そんなお前だから、もっと強くなれる。
合気道の時のことは忘れろ。技と師範だけを覚えていればいい。
今までやってきたことを全て使いこなして、ここまで上がってこい。
真白が俺と同じ段に合格したら師範に連絡するように言ってあるからな!
そしたら、一度手を合わせてみよう。
強くなったお前が来るのをいつまでも待つから。
じゃあな
役立たずの父さんより』

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