「師範!」
数ヶ月ぶりに古い扉を開けた。
慣れ親しんだ懐かしい木の匂いが鼻をくすぐる。
「コラ!そんな開け方したら壊れるって言っておるだろう!!」
長い長い廊下の先から聞き慣れた声がした。
あたしの、もう一人のお父さん……いやおじいちゃんでもあるか。
「誰だ!まったくも……」
白髪まじりの頭を無造作にかきながら顔をあげた。
その黒い瞳にやっとあたしが映ったみたい。
足を止めた師範は同時に手をぶらんと勢いよく落とした。
「真白……!」
「お久しぶりです!師範!」
あたしは元気な声で挨拶をしながら靴を脱いだ。
玄関から上がったあたしを笑顔で迎えてくれる師範。
「久しぶりだなぁ!元気にしてたか?」
「うん!あ、これ母から」
左手にぶら下げた紙袋を渡す。
それを受け取り覗き込んだ師範はまるで子供のような顔をして喜んだ。
「おぉ!これは…っ!夕南さんも気が利くなぁ」
中に入っているのはかりんとうだ。
師範の大好物。
珍しく帰っていた母さんに調度家にあったもんだから…と言って持たされた。
「今日は見ていくだけかい?」
「ううん。時間はあるから、稽古を受けたい」
「そうかそうか。じゃあ着替えてきなさい。お前がいない間にたくさんの生徒が増えたんだよ」
「また?!繁盛してるね、ここも」
「ハッハッハッ!まぁな」
代々受け継がれてきたこの道場は、古きよき瓦屋根の大きい家だ。
師範はここに住んでいるから、生活のにおいもちゃんとする。
これがすごく落ち着くんだよね。

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