(そういえば、昨日葵先輩に貸したんだっけ?)
あたしは曲げていた膝を伸ばす。
「すいません。葵先輩に貸しちゃってました」
「え?アオめー」
先輩は仕方がないと言ったようにロッカー室を出る。
何だかかわいそうだし、先輩は仮にも受験生なわけだから。
あたしは教室に声をかけた。
「誰か美術資料集持っている人いない?」
「あ、俺持ってる」
手を上げたのは山内。
「じゃ、それ高杉先輩に貸してあげて。
先輩、山内が貸してくれますって」
後ろにいた先輩に言うと、
あきらかさまに嫌な顔をしだした。
「え、尋[じん]の?」
あたしは頷く。
山内が美術資料集を持ってきた。
「ほら、先輩」
高杉先輩に差し出すと……
「おまえのかよー」
と、しゃがみ始める。
「「は?」」
「真白ちゃんのじゃなかったらおまえのって、どんな罰ゲーム?」
「なんすか!俺の何が悪いんすか!」
「おまえと真白ちゃんじゃ違うだろ?!」
「はぁ?こんな『男おんな』のどこが俺と違うんだよ!」
「男おんな――?」

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