それを見た先輩は実奈先輩に声をかけた。
「あのさ、実奈」
「ん?」
「何で村野くんのが欲しいの?」
(「よくぞ聞いてくれた…っ」
と、言っていいのか、
「それ聞いちゃう…?」
と言うべきなのか)
あたしはまた目を逸らす。
「えー、だって村野くんかっこよくない?」
そしてその目を大きく見開いた。
「りょ…た…がカッコイイ?」
小さく呟いてあたしは前をみずヨロヨロと歩き出す。
――ガコンッ!
「いってぇ…!!」
声を上げてそのまま飛び上がる。
「「大丈夫?」」って聞いてくれる先輩たち。
(なんてお騒がせな自分…)
バリトンサックスの楽器ケースの角にぶつけた、『弁慶の泣きどころ』をあたしはしゃがんで摩った。
「はぁ………」
「真白ちゃん」
「どうしたのいきなり?」
実奈先輩があたしを見る。
(あなたのせいです…)
って言いたい口を無理矢理閉めた。

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