あたしをみて顔をしかめたから、あたしも諒太を睨んだ。
少しの沈黙が流れてから、声が聞こえた。
「ねぇ村野。どうしたの?中入らないの?」
(女の、…子? )
どこかで聞いたことあるような、甘ったるい猫なで声。
「あぁ。先客がいた」
諒太が首だけ後ろに回しながら言った。
先客とは、たぶんあたしのこと。
「ふーん。じゃあどうする?」
「今日は止めるか」
そういって踵を返し下りていく諒太の背中を、あたしは無意識に追いかけていた。
ドアが閉まる瞬間に、隙間に手を入れて顔を出す。
「諒太…っ!」
口に出しちゃって、自分でも気づいた。
(あたし、何やってるんだろう…)
しかも、隣にいたのは…
「は、るな……」
「真白?!」
あたしは顔を伏せた。
(見てられない…。
弱いな、あたし)
「あ、なんでも、ないや……。邪魔、しちゃってごめん、ね…」
スラスラ言えなくて、言葉が出てこなくて…。
あたし自信は――たぶん認められてない。
頭も動かないし、ダメだ。
あたしは顔をあげないままそう言って、ドアの中に自分を押し込んだ。

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