「ありがとうございます」
「それなら良かった」
「あ」
いつの間にか家の前にいた自分。
「あたしの家、知ってましたか?」
「ううん。真白ちゃんについて来ただけ」
そう爽やかに笑う先輩だけど、当の自分はすごく後悔。
(馬鹿だ……。先輩のこと気づかずに勝手に歩いて来ちゃうなんて)
「すいません。送ってもらう形になっちゃって」
「いや、真白ちゃんの家知れたし…。じゃあ、今日はありがとう」
「いえ!こちらこそ」
あたしは頭を下げた。
「あ、村野……」
「え?」
上から聞こえた声に顔を上げると先輩がある方向を見つめていた。
同じようにあたしも顔を動かす。
「りょ…た」
「こんにちは、先輩」
遠ざかることもせず、
かといって、近づくこともせず。
諒太はその場で声を張り上げた。
先輩も動かずに、あたしの隣で返事をする。
「おう、村野。今帰りか?」
「はい。先輩は何してるんですか?」
(あれ…なんか、この空気ピリピリしてないか?)
張り詰めたような、違和感のある空間。
二人の声だけが響く。
「真白ちゃんと、遊びに言ってたんだ」
「ね?」と笑顔で同意を求める先輩にあたしは苦笑い。
諒太の顔は、いつか見た彩夏のように目だけが笑っていない笑みで……。
(怖い……)

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