思い出すと浮かぶのは、厳しいけど優しい…師範・師匠達の顔。
あたしを見る目は本当に期待している目だった。
『大会にでないか?』
そう言われたのは一昨年の夏。
だけどあたしは、
『いいです』
断った。
あたしはただ単に、それぞれの武道を楽しみたかった。
空手も極真だけど、日本一になろうとは思わなかったんだ。
でもその一言で、合気道の先生達は酷くがっかりしたようだった。
「今も、やっているのか?」
あたしは視線を地面に移した。
「合気道は…もうやってないです。
他は時間のある時に行ってます」
「何で合気道だけ?」
「師範はもの凄くいい人だったけど、師範じゃなくて先生と気が合わなくなっちゃって」
『調子にのるな』
耳元を掠めるように低く話された声。
組み手中、一瞬の出来事だった。
―――――――
「そうか」
「お誘い頂いたのに、すいません」
「勿体ない。お前ならもっと上を目指せるだろう?」
師範の隣にいた先生があたしを見下すように喋りだす。
「でもあたし、日本一になるとかそういう目標を持ってるわけじゃないんです。
あたしは精神面や肉体的にも武道を学び、自分のことは自分で護れるように…自分に負けないあたしを作ることが目標です。
大会を出場することで、目標に近づけるってわけじゃないと思います。
だから、その時間は自分を高めるための基礎練習等に使いたいと考えました」

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