刹那主義













中学一年の冬。

少女と僕は白銀だという雪道に跡を残しながら家へ帰る。

隣に並んで二人三脚のように足を揃えて、振り返れば、


四つの足跡がまるで、





「ねぇ、貴方はどう思う?」


少女は僕のことを“あなた”という。
あまり名前で呼ばれたことがない気がする。


「何が?」
「男女の体の違いについてよ」

僕の頬は寒さ以上の何かで朱に染まる。



「ストレートにくるね。もっとオブラートに包んで言ってよ」
「じゃあ、私と貴方の体の違いについて、どう思う?」


もっと言葉を選んで言ってよ、と言えばよかった。


「それは、…子孫を作る体とそれを産み落とす体の違いについてを答えればいいの?
それとも、最近大きく開いた身長差についてを答えればいいの?」

少女は珍しく動揺したように頬を染めた。

「貴方、中々卑猥な言い方するのね」
「ひわいって?」


「……保健の授業で、貴方みたいにコーフンする人を総称して言うことよ」


………。


「ヘンタイ、ってこと?」
「まぁ、そうね。じゃあ、さっき貴方が言った後者の方を答えてよ」



僕らの身長差について。






「…やっと一つ勝てるものが出来た」
「馬鹿ね。女の方が大概小さくあるものなのよ。
本当、嫌ね。男女平等とかいいながら、この身長差」



じゃあ、

「じゃあ、やっと高いところにある本を取ってあげれる、とか?」


少女は白い息を吐きながら笑った。
目は優しげに細められ、唇もまた。


「素敵ね」
「やっと、『何か』から守ることの出来る体を手に入れた?」
「素敵、ね」




僕はもうその答えを最後に脳は働かなくて、白い息を吐く少女の唇にしか目も意識もいかなかった。



やっと。



やっと、後ろを振り返りある四つの足跡が、
恋人同士に見える、とか。



それ以来僕は少女を“女”としかみれなくて。