*  *  *


 退院したその足で、僕はカッちゃんの働いている会社を訪ねた。既に僕の部屋も用意されている。三畳一間の小さな部屋だが、今の僕には十分だ。
「ひとりになれる方がいいだろ?」
「うん。で、仕事の内容は?」
「鳶の仕事。明日からやってくれる?」
「いいよ」
 給料は週給制の日額一万二千円。
 現場まで人夫を車で運び、僕も彼らに混ざって鳶の手伝いをする。肩書は『専務』だ。
 初仕事の日の朝、出発前に親方のキタノさんに挨拶を済ませ、朝食を掻き込んでバンに乗り込んだ。後ろに六人と横には親方のキタノさん。途中でコンビニに寄って缶コーヒーを三本買い込み、七時半には現場に到着した。仕事は八時からだ。
 鳶の仕事なら前にも経験がある。
 少しブランクがあるので最初こそ少し手間取ってはいたが、十時の小休止前までには、ほとんど昔の感覚を取り戻していた。昼には弁当を食べて全員揃って昼寝をする。午後の仕事は僕の仕事ぶりを見極めたキタノさんから、別の仕事を任されるようになった。
 三時過ぎ、小休止の時間の少し前に、キタノさんに『これでジュースを買ってきてくれ』と千円を渡され、戻ってきたタイミングを見計らって、全員休憩に入った。
「どうだ?慣れたか?」
「はぁ……まぁ……」
「そうか、頑張りや」
 キタノさんの話だと、この小休止が終われば、後は片付けて帰るだけ、なのだそうだ。
 現場の整理を済ませると、僕らは飯場に戻ってきた。まだ夕方の五時だ。