ボロアパートの桟は僕の体重を支え切れず、悲鳴を上げて真っ二つに折れた。頭上に降り頻る土塀の塵が、朦朧とした意識の中で、僕にまだ生きている事を教えてくれる。
 テーブルの角に向かって転がり落ち、そこで強打した為か、起き上がろうとしたが足が言う事を聞いてくれない。僕は今し方送ってくれたばかりのハルオちゃんに電話を掛けた。
「もしもし……」
「なおちゃん、どうした?」
「ちょっとね。戻ってきてくれないかな」
「……解った、すぐ行く!」
 ハルオちゃんはとんぼ返りで僕のアパートに駆け込んできた。入院する度にアパートを引き払ってもらっている関係上、ハルオちゃんにもスペアキーを渡してある。
 アパートの部屋の中央で腰を擦る僕と、折れた桟を交互に見ながら、『おい、またやったのか……』と落胆した声でハルオちゃんは呟いた。
 起き上がらせようとして僕の身体を支え、腰を曲げた時に僕があまりにも痛がるのを見て、『救急車呼ぼうか?』と言った。
 脂汗が止まらない。声も出そうと頑張っているのだが、恐らくハルオちゃんの耳には届いていない。
 ハルオちゃんが付き添ってくれた病院に、慌ててカッちゃんも飛んでくる。
 レントゲンを撮ってみて、取り敢えず骨折はしていないようなので、二人ともホッとして顔を見合わせた。
 ハルオちゃんが先生に呼ばれ、状況を詳しく聞いてきてくれた。
「打撲だってさ」
「まだ腰も首も痛いんだけど」
「助かっただけでもよしとしなきゃ」
「……そうだね」
 カッちゃんが会話に割って入る。
「なぁ、なおちゃん。うちで働かないか?」
「でも……」
「悪いようにはしないから」
「……解ったよ」
 二人の背中を見送って、僕はそれから二日ほど、『検査入院』と云う名目で、病院のベッドの上で過ごした。