目を覚ました時、僕はノリちゃんと同じ病院にいた。
 アパートのガス感知器が大音響で鳴り響き、慌てて飛び込んできた警備員に発見され、そのまま病院に搬送されたらしい。僕ら精神疾患者の部屋は、このような事態を想定して、警備会社と自治体で契約を結び、まさかの時には鍵を開けて、警備員が飛び込んでこられるようになっている。
 医師の話だと、昨晩、担ぎ込まれてすぐ、胃洗浄で、薬物は洗い流されたらしい。なるほど、新宿の病院で処方された『ファルシオン』では死ねないと云う事か。僕はこの時、なぜ処方睡眠薬を変えられたのかが解ったような気がした。
「どうしますか?このまま退院してもいいし、何なら精神科に連絡して搬送してもらう事も出来ますが」
「退院させてもらえますか?」
「それには身元引受人が必要ですが、どなたか連絡の取れる方はおられますか?」
 僕はハルオちゃんの住所と電話番号、それに地域支援センターの電話番号を書いて渡した。
 すぐさま心配してハルオちゃんが飛んできてくれた。僕はどこか虚ろな目でハルオちゃんを出迎えると、そのまま彼の車に乗って、アパートに戻った。もはや生きる気力は完全に失せた。ここにいる僕は既に死人と同じだ。

――僕のいる場所はどこにもない――

 僕はアパートの桟に浴衣の紐を括り付け、思い切り足元の椅子を蹴飛ばした。