ハルオちゃんは『これ』と言って一枚の紙切れを僕に手渡した。紙にはノリちゃんの新しい住所が書き込んである。
「でもなぁ……彼女に合す顔がないよ、俺……」
「そっか……」
 その後は終始無言のまま、僕らを乗せた車は、快適に長野自動車道を飛ばして行った。途中、姨捨サービスエリアで休憩を取り、お茶のペットボトルを三本買って、ハルオちゃんの車に乗り込んだ。
「現場まであと一時間くらい掛かるけど、なおちゃんも現場に行ってみる?」
「おいおい、そう言って誘ったの、ハルオちゃんの方だろ?」
「ああ……そうだったな」
 現場までの道もずっと僕は外を眺めていた。
ノリちゃん……
 どうしているんだろう……
 ハルオちゃんは気にして僕に話し掛けてくる。ありがたい事だが、僕としてはもう少し、そっとしておいて欲しい気分だ。
「なおちゃん。結構派手な事やってくれるから」
「ごめんね、ハルオちゃん。迷惑ばかり掛けて」
「いいって事さ。それよりヒロコの墓参り。行ったか?」
「いや、場所判んないし……」
「後で場所教えるよ」
「ありがとう」
「なおちゃん、これからどうやって生活するつもりだい?」
「うーん……ま、細々とやって行くさ」
「何かあったら遠慮なく声掛けてくれよな」
「うん……」
 現場に着いて見渡した広大な敷地は、そろそろ紅葉が始まった樹木もちらほら目に付く。僕はハルオちゃんに促されるまま、その一角にあるプレハブに通された。
「おはようございます、社長」
 ハルオちゃんは僕が辞めてから、建築設計だけではなく、建築事業そのものにも手を出したらしい。ハルオちゃんは現場責任者らしき人に『こちらは専務の井上だ』と、僕を紹介した。ハルオちゃんは言うに事欠いて僕を勝手に専務にまで祀り上げてしまった。もはや引っ込みが付か