が湧きあがってくるのが判る。
 彼女にお礼を言って喫茶店で競馬新聞を広げる。実は松澤病院を退院した時、『もう競馬はやらない』と、心に誓ったのだが、途中で見掛けた売店の前に積み重なった新聞を見ているうち、つい手が伸びてしまった。モーニングセットを注文して細かくチェックする。
 どうせまたハルオちゃんの会社に行けば、嫌でも競馬漬けの毎日が戻ってくる。
 僕は競馬新聞を閉じると、徐に携帯を取り出し、ハルオちゃんに『やっぱりやめた』とメールを送った。せっかくの決意を棒に振っても仕方がない。
 『これで再び福祉課とも切れる』と云う淡い期待は、この時点で泡と消えた。
 その日から僕は夢中になって詩を書き続けた。コンテストの応募締め切りは三月末。まだ時間はたっぷりある。
 僕は締め切りまでに二百近い詩をしたため、その中から自信作だけを選んで印刷し、応募に備えた。ハルオちゃんの会社の画像編集ソフトほどの性能はないものの、僕のパソコンにも画像編集ソフトは入っている。僕は詩を作るのと並行して、絵も何点か描いた。
 締め切り間近で、そろそろ応募作を送ろうと思っていたある日の午後、ハルオちゃんが突然、僕のアパートまでやってきた。
「元気にしてるかな?ってね。近くにきたから」
「ありがとう。僕は元気だよ」
「生活費は?」
「前みたいに競馬もしないし、楽なもんだよ」
「それは残念だな……」
「え?」
「今度さ。ネットで会員を広く集めて『情報競馬』を始めようかなって。なおちゃん……手伝ってくれない……よね?」
「ごめん。やめておくわ」
「やはり……どうしてもダメ?」
「やっても大した金にはならないよ」
「うーん……なおちゃんが言うんなら、そうなんだろうな。仕方ない、諦めるか」
 そう言ってハルオちゃんはトボトボと返って行った。悪いが僕には新しい目標がある。もし再び競馬を始めるとしても、現在の貯金を倍に増やしてから、だ。それまでは絶対、何があっても競馬はしない。
 サイモン&ガーファンクルの曲を掛けて窓を開ける。夜風は心地よい音楽と相まって、僕の心を癒してくれる。今晩は普通に睡眠薬だけで眠れそうだ。
 寝るにはまだ少し早い時間、僕は九時に薬を飲んで、その日は深く目を閉じた。