僕はどこにもぶつける事の出来ないモヤモヤを溜め込み、既に精神は崩壊寸前だった。迎えにきたハルオちゃんに『このまま精神病院に連れて行ってくれ。頼む、壊れる前に!』と頼み込んだ。精神病院は救急病院とは違い、二十四時間の受け入れ体制が完全ではない。
 僕はついに崩壊した。二時間待たされた揚句、やっと出てきた看護婦に『もう少し待ってくれ』と言われ、それまでギリギリの線で保っていた僕の心が悲鳴を上げたのだ。
 僕は目に付くもの全てに火を着けて回った。
 ポスター。
 電話帳。
 チラシ……
 間もなく慌てて飛び出してきた警備員に身体を押さえ付けられ、僕はそのまま警察に逆戻りする事になった。もはや善悪と云う概念は僕の中にない。それでも何も言わずカップラーメンを目の前に突き出され、僕は少しだけ正気を取り戻した。僕のせいで彼女は……
 僕の病状を知って、先ほど火を着けた病院から警察に連絡が入る。『身柄の引き取り準備が完了しました』だと。それならもっと早く整ってさえいれば、僕はこんなところに送られてこなくても済んだはずだ。
 覆面パトカーで送られてやってきた病院は、二年前と同じ、独房だった。
 泣きたくても涙が出てこない。
 これがどんなに苦しい事か、考えた事があるだろうか。
 僕はベッドのエアマットの空気を抜いて、鉄格子の端にエアポンプのコードを括り付け、そのまま首を掛けた。
 これで楽になれる。
 向こうに行ったら彼女に謝ろう。
 僕は静かに目を閉じた。


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