ねだ》る。それでも最初は黙って渡していたが、ある日、その事が元で大喧嘩をして、僕はアパートを飛び出した。ほとぼりが冷めれば彼女も反省してメールでも送ってくるだろう。そう思いながらサウナに泊まり、僕は彼女からの連絡を待った。数日経っても一向に連絡がない。
 心配になって戻った僕の部屋には、彼女の姿があった。泣き疲れて眠っているのか、俯せに眠ったまま身動きひとつしない。
 僕は電気を着けようと、彼女に近付き、足元にある“もの”を踏み付け、慌てて電気を着けた。

――これは……僕の睡眠薬!――

 彼女を揺すってみたが返事がない。
 僕は青くなって救急車を呼んだ。
 睡眠薬の過剰摂取だ。
 間に合ってくれ……
 そう祈るような僕に対して、間もなく現れた救急隊員は無情にも『残念ですが……』と言葉少なに告げ、警察に連絡した。
 僕は警察に連れて行かれた。まだ完全に『自殺』とは断定されていないからだ。
 しばらくして、司法解剖の結果と共に、部屋に残された遺書が見付かったとの連絡が入り、僕はやっと釈放された。
 雨の降り頻る六月の夜。
 僕は空模様のように泣く事すら出来ず、ただ黙って冷たい雨をその身体に受けながら、警察署の前で、ハルオちゃんが迎えにきてくれるのを待っていた。