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 その日から、彼女は事ある毎にメールを送ってくるようになった。最初は他愛のない話から始まったメールは、いつしか神妙な話になってきた。もはやメールで済む内容じゃない。
 金曜日、彼女に誘われるまま、高級レストランに向かった。彼女が前以て予約していたらしい。一応、この手のレストランのマナーくらい、僕にも解っている。彼女を席に着かせてから対面に座り、僕は彼女の顔を覗き込んだ。
「昨日のメールだけど」
「ごめんね。変な事書いちゃって」
「いいんだよ。……いいんだけどさ」
「本当にごめん!」
「だからいいってば。それより、あれ。本当?」
「うん。お姉ちゃんとね……」
「仲悪いんだ」
「そう言うんじゃなくて……その」
「喧嘩した、とか?」
「……まぁ……そんなとこです」
「うーん……じゃあ僕の部屋にくる?」
「いいんですか?」
「ああ、どうせ独り暮らしだから」
「……じゃあ……行っちゃう!決めた!」
 彼女に笑顔が戻った。彼女はその晩のうちに、何の荷物も持たぬまま、その身ひとつで僕の部屋に転がり込んだ。
 僕の部屋は六畳一間だが、風呂も洗濯機もテレビもステレオもパソコンも、思い付く日常で必要とするものは全て揃っている。彼女もさすがに最新式の家電ばかりが並ぶ僕の城にきて驚いた。
「独り暮らしだって聞いてたから……すごーい!何か別世界みたい」
「そんなんじゃないけどさ。これもハルオちゃんのお蔭だよ」
「そう言えば社長とはどんな関係?」
「青森にいた時代からの悪友さ」
「へぇ……道理で仲がいいのね」
「ヒロコはそっちのベッドを使っていいよ」
「なおちゃんは?」
「俺ならテーブルの前で毛布に包まってりゃ十分さ」
 僕が後ろを向いている間に、ヒロコはスリップ一枚になって布団に潜り込んだ。彼女の着ていた服が僕の横で行儀よく積み重なっている。僕は毛布に潜り込み、軽い寝息を立てて眠る彼女に『おやすみ』と言って電気を消した。


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