そろそろ梅雨に差し掛かろうとしていたある日の事、データの収集に思いの外時間が掛かってしまい、気が付いたら午後六時近くになってしまった。会社には最後に施錠して出る事になっている、ヒロコさんと僕しか残っていない。
「井上さん?」
「あ、ごめん。今終わるから」
「遅くまでお疲れ様」
「ありがとう」
「ところで……」
「ごめん、今……」
「そうじゃなくて」
 ヒロコさんは、どこかモジモジしている。
「帰りにちょっと付き合ってもらえませんか?」
「ん?ああ、いいよ」
 僕はカバンにプリントアウトしたデータを詰め込み、ヒロコさんと連れ立ってエレベータに乗った。話があるようなので、取り敢えず会社の隣にあるファミレスに立ち寄った。
 窓際の席に通され、彼女の向かいに座る。さすがに『ビール』と云うわけにも行かず、僕はドリンクバーを注文し、そのコーナーでカルピスを持ってきた。彼女も同じようにカルピスを持ってきて、再び僕の前に座る。
 少し俯いて、会社にいた時と同じように、しきりにモジモジしている。ビールを飲んでいるわけでもないのに、頬の辺りがほんのり赤い。
「実は……」
 そう言って再び沈黙が訪れる。結局、次の一言が彼女の口を吐いて出るまでに十分以上掛かった。
「あの……井上さん。彼女いるんですか?」