たったの一週間が、僕には悠久の時にも感じられた。
 その辛い日々が過ぎて、少しずつだが回復の兆候が見られるようになった。幻聴の数も、少しずつだが減る傾向にある。
 食事もまともなものが出るようになった。久々の食事は、病院食の冷めたものなのにも拘わらず、どんな食事よりも美味しい。
 その日の回診で、先生から『どんな具合だね?』と聞かれ、僕は『はぁ……何とか』と、チンプンカンプンな答えを返した。苦笑いを浮かべる先生の顔が痛々しい。
 それからさらに一週間。煙草もお菓子も許可されて、やっと人間としてのまともな生活の一部が戻ってきたかに思われた。
 だがここは精神病院。
 僕のいる部屋も格子の嵌った閉鎖病棟だ。
 規則、規則で毎日が雁字搦め。
 治す為とは云え、息が詰まる。
 もし周りの人がいい人達ばかりでなかったら、僕は今よりもずっと悪化していたに違いない。それでも院内で友達も出来た。ちょっと変わってはいるが、明るくて気のいい連中だ。僕は努めておとなしくしている事にした。
 ある日、先生が回診にきた時に『どうだね?』と聞かれて『先生、テレパシーって信じます?』と、逆に問い質した事がある。
「何ですかね……こう……僕の考えている事が、相手に伝わるみたいなんですよ。ビビビビビ……っとね」
「そうか、解った解った。薬を毎日ちゃんと飲んでいれば治るから。心配しなくていいよ」
「先生には伝わらなかったのか……残念」
「伝わっているよ。だからちゃんと治そう」
「……」
 そんな会話は度々続いた。次第に先生の苦笑いの意味も解るようになってくる。
 僕の隣に寝ているヒグチさんは、あまり煙草を吸わない人なので、時々、お菓子と交換する。本来は一日一箱の配給。僕にはこんなものでは足りない。
 ヒグチさんはこの病棟のボスだ。見た目にも普通の人と変わらない。こんな場所に入っているのが不思議なくらいだ。