思えば、ここでやめておくべきだったのかも知れない。
 いよいよ本命のレースの時間がやってきた。昨日、パソコンで弾き出したデータ通りに穴狙いで三連単の総流し。主軸の二頭さえきてくれれば、後はどの馬がきても負ける事はない。気が付けば僕の懐にあった金は五倍以上に膨れ上がっていた。
 調子に乗ってメインレース以後も昨日立てた通りに購入を続け、さらに僕の所持金は膨らんで行った。もはや負ける事など頭の片隅にも残ってはいなかった。
 絶対勝てる。
 ただそれだけが僕を支配し、大きくなっていたのかも知れない。
 次のレースで今日は最後だ。
「ハルオちゃん。俺、次で大勝負に出る!」
「大勝負?」
「今日は負ける気がしないんだ」
「おいおい、そこまで熱くならなくても……」
「大丈夫さ。まぁ見てなって。今度の主軸は六番人気。今までの穴賭けと比べれば、勝ったも同然だよ」
 僕は主軸から流して、馬単を三点買いする事に決めた。今度は千円単位じゃない。五十万円単位だ。
「これが当たれば、汚いアパート暮らしともおさらばだ」
「こっちまでドキドキするよ」
「イチノライセン。頼んだぞ」
 レースが始まった。
 六番人気のイチノライセンは順調にその脚力を生かし、コーナーを曲がる度にどんどん後方と差をつけて行く。もはや最終の直線を待つ事なく、誰の目にも優勝は明らかだ。
 勝負は二番手の争いになった。
 第一コーナー直前に少しもたついたものの、僕が対抗に推したライジングマネーは体勢を立て直し、最終コーナーを曲がる頃には二位をがっちりとキープしていた。
これなら間違いなく勝てる。
 そう思った瞬間、その後方から馬群を縫って一番人気のサンダーライジンが上がってきた。見る見る差が縮まって行く。
 僕は馬券を握りしめた。
 握る拳にも力が