駅員に遺失物が届いていないか確かめたが、やはりと言うか、無しの礫《つぶて》だ。
 駅員に聞いた交番で遺失物届を提出したハルオちゃんは、ホッとしたのか、やっと元の顔色に戻った。
「どうしよう……」
「ま、どうにかなるだろ?」
 さっき行くはずだった喫茶店に戻り、対面に座ったハルオちゃんは、意外と僕より気楽に構えているように見える。そんなハルオちゃんが、僕の財布を覗き込んで、『いくら入ってるんだい?』と聞いてきた。
 『一万円』と答えた僕に、『じゃあ大丈夫だ』と返してきた。『なぜ?』との問いには、『だって俺は一万を五十万にしたんだから』との答えが返ってきた。
 どうやら僕の一万を使う気らしい。
 そんな簡単に五十倍になんてなるものか。
 僕の心配を余所に、ハルオちゃんはいつにも益して自信満々な表情をしている。
 僕はもう一度、財布の中を覗き込んだ。一万円の他に、僅かだが帰りの電車賃くらいなら残っている。他ならぬ親友の頼み。無下に断る事も出来ない。
 五十万を落としたハルオちゃんからすれば、一万なんて微々たるもの。それで笑顔が戻るのならば安い出費だ。
 ハルオちゃんは気を取り直したように、鼻歌交じりで再び新聞の上に赤ペンを走らせている。僕はハルオちゃんの夢に賭けてみたい気持ちになった。
「この『ユメノライジング』と『キングオブラッセル』が着そうだ。うん、間違いない」
「それ、何レース?」
「第一レース」
「ふーん」
「この本命◎と大穴▲を絡ませるんだ」
 第一レースは千円の五点買い。これだけで資金の半分は飛ぶ。尤もハルオちゃんは最初から五十万を狙う気らしい。
 後楽園の場外馬券売り場への道すがら、ハルオちゃんはキョロキョロと辺りを見回している。どうやら昼食を安く上げる為に、ファミレスで