二両繋ぎのディーゼル列車の中で、僕は鰺ヶ沢《あじがさわ》への流れ行く景色を楽しんでいた。飛ぶように流れる景色はどこまでも白く、一面に降り積もった雪はキラキラと眩しく光っていた。その雪も目的地が近付くほどにどんどん深くなって行く。そうこうしているうちに、列車は鰺ヶ沢駅に滑り込んだ。
 駅舎には懐かしい人物、祖父が立っているのが見える。雪のように真っ白な髪。背丈は凛として高く、まるで雪に負けじとして立ち続ける、松のような人だ。
「おお、なおと。久しぶりじゃが元気にしとったか」
「はい、元気です。会いたかった」
 僕は祖父に連れられて青森の祖父の家に向かった。膝丈まで埋まるほどの雪を踏みしめながら、慣れない雪の道を歩く。
 冬晴れの寒い午後、日の光は二人を見守るように燦々と降り注いでいた。家の近くまでくると祖母の姿も見える。
 祖母は祖父とは対照的に背が低く、体型もふくよかだ。祖父が松なら、大方祖母は雪に埋もれても健気に咲き誇るツツジのような人、と云ったところか。胸には小さな白い前掛けをしている。
「なおと、よぐきだな。元気にしてらか」
「はい。おばあちゃんもお変わりなく」
「そうかそうか、それはなによりじゃて」
 三百坪はあろうかと云う広大な土地に建つ銭湯。そこで祖母は番台に座りながら、時々ボイラーの様子を見に行く。ここの銭湯は地下から水を汲み上げ、それを重油で沸かしたものだ。客が全て払ったタイミングを見計らって食事の用意をしてくれた。
 ここの名物料理、はたはたの味噌田楽刺し。それを七輪で焼く。
「なおと。じゃっぱ汁もあるからな。どんどん食べ」
 祖母の手料理はどれも美味しく、僕は久しぶりに腹いっぱいになるまでお代わりをした。