もう何も言うことはないという顔をして、ルナは背を向け歩き出した。


彼女のヒールの音が静かに、だけどしっかりと音を立てながら遠ざかっていく。



『ちゃんと説明しろッッ』

「……共に危険な環境の中にいる男女は平和な環境の中にいるよりも恋愛に発展しやすいのよ。私たちもそう、少なくとも私はそうだったわ。今回の件が落ち着いた時に貴方への想いも落ち着いた」

『…………』

「貴方との愛は幻だったの。でも、貴方との時間は楽しかったわ…ありがとう」



ドアノブに手を掛けた彼女を再び呼び止めた。


この部屋から出て行ってしまえばもう、彼女とは話すことも会うことも叶わなくなる……そう直感が叫んでいる。



『そういう事は相手の顔見ていうもんだろう』



俺は期待したんだ。


もしルナが泣いていれば、悲しそうな顔をしてくれていたなら……本心でない、まだ望みはあると………。



「さようなら」



振り返りそう呟いた彼女の目は驚くほど冷たく見とれてしまうほど綺麗で、何も言えずに固まっていると気付いた時にはそこに在るのはドアだけで、彼女の姿はどこにもなかった。