近付いてきた彼女はどこにも座ることなく俺の前に立ち尽くした。


触れられる距離にいるのに随分分厚い壁を感じる。



「目が覚めてよかった」

『……体は大丈夫か』

「もう平気よ、心身共に疲れていた私をロナウドが優しく癒してくれたから」



目を見開きルナの顔を見ると、彼女も俺の顔をしっかりと見ていた。


だがその目は以前の様に愛らしい目ではなく、姫が民に己との身分の差を示すように気高く有無を言わせないような目だった。



「一週間後に私とロナウドの婚前パーティーが開かれるの。貴方も祝福してくれるでしょう?」

『……なんの冗談だ』

「冗談ではないわ。私たちのために沢山の者たちが祝福してくれている。私はロナウドと結婚して幸せな姿をみんなに見せたい」

『自分が何言ってるのか分かってんのかッッ』



袖机におもいっきり拳をぶつけると、スタンドは揺れ窓は全開になり突風が入り込んできた。


感情のまま肩を揺らし拳を握り締めている俺の姿を見ても、ルナは涼しい顔をして俺の事を見下ろしていた。


今、目の前にいるのは誰だ……こんな女…俺は知らない…………。


一体何がどうなってる…………。