繊細な装飾を施された執務室のドアをこっそり開けるのではなくしっかりと叩き、お父様の返事を待ち中へと足を踏み入れた。


相変わらず忙しいみたいで、机上には書類が積み重ねて置かれ、袖机には資料のようなものが山積みになっている。


ストンッと革張りのソファーに腰を下ろすと、私の重みでソファーが少し凹み座り心地のいいところで動きを止めてくれた。



『闇オークションの議論の続きか?』

「違うわ。ロナウドとの婚約の件で話がしたいの」

『今手をつけている仕事が終わってからではいけないか』

「お仕事の邪魔をしているのは重々承知しているわ。だけど、今すぐ話をしたいの」



真剣だと、重要な話なんだと分かってもらいたかった。


真っ直ぐお父様の目を捉え離さずにいると、観念したかのようにお父様は持っていた万年筆を机上に置いてくれた。



「お父様、ありがとう」

『いや、それで解消した婚約について今更何を話すんだい?』

「まだ正式に解消できたとう通達は来ていないのでしょう」

『何を言っているんだルナ。お前とロナウドの希望で婚約は解消しただろう』



ロナウドから口止めされているからか、お父様から本当のことを言ってくれる気はなさそうだ。