「私も…そろそろ帰るね。」


荷物を持ち、席を立った。


「えっ…」



一番最初に声をあげたのは…



意外にも晴海くんだった。



「俺、おーちゃんともっと話ししたいっす!!」


「僕も」


真くんと大ちゃんが嬉しい事を言ってくれるから


自然と笑顔が出た。



私は眼鏡を直し


「ありがとう。社交辞令でも嬉しいわ。


…良い生徒さん達で



良かった」



最後の言葉は

自分に言い聞かる。



「じゃ、さようなら」



私は軽く手を振り、すぐに出口へ歩いた。



…ちゃんと『奥さん』として振る舞えたよね?



お店の外に出て、コートを羽織る。



でも、涼のいる所へすぐには帰りたくない…。



…私は、マンションとは反対へ歩き始めた。



少しでも遠回りして時間を稼ぎたかった。



晴海くんに


再び出会ってしまった余韻に浸りたかったのかもしれない。


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……しばらく歩いてた。




………。



後ろから


誰かの足音が響く。



街灯の灯りは頼り無い。



…私は角を曲がって

すぐに走り出した。



ピンヒールの靴ってホント走りにくい!!





─ガシッ!



「ヤダッ!!」


いきなり肩を捕まれて



私はしゃがみ込んだ。




「……逃げんなよ…」



…え




聞き覚えのある


低い声。



「やっと捕まえた」





……神様

これは夢でしょうか?