それから──…無言のまま走り続けた。




「着いたよ。」


車は大きなマンションの駐車場に停まった。



先生は車を降りて、助手席のドアを開ける。



私も車を降りて、歩く先生の後をゆっくり追った。




──…エレベーターに乗る。



──扉が開き、また歩き、あるドアの前で止まる。





「ここが私の住んでいる部屋だよ。」





────ドクッ…




先生の部屋……。





……あの時の、先生の家での出来事が脳裏に浮かんできた。



部屋に入ると、先生は低い声で、少し早口で話し始めた。




「──美桜、今日から卒業式の前日まで、ここで暮らしなさい。

勝手な外出は禁止だ。出掛けるときは、必ず、私に言いなさい。」


「──…あと、大介くんには会わないように。」



──大ちゃんに?


「……それは…どうしてですか?」



「彼に会うと、君の気持ちが乱れるみたいだからね。

──…まぁ、"初恋"の相手だから、仕方ないのかもしれないけど、私はいい気分はしない。」




…その時、気付いたんだ。


先生は、私の初恋は『大ちゃん』だって勘違いしてるんだ…。



変に否定して、ハルくんのことを知られるのも嫌だから、ここはあえて否定しなかった。



「私も一緒にいたいのだが、こういう時期だからね。
成績やら何やら、学年の総まとめをしなければならない。学校に近い、実家から学校に通う。君はもう短大に受かっているから、学校に行く必要はない。


だからと言って、勝手な行動はしないように。


わかってるね──…」




──…内ポケットからピラッと紙を出す。




──…例の未来の写真…



「わかっています。今日は…最後に会っておきたかったんです。…"彼"に。」



ハルくんに……。




「じゃ、私は行くから。

そうだ、美桜。


来週の日曜は私の実家に来なさい。母が会いたがってる。」




そう付け加え、先生は出ていった。




来週……か。