家族を捨ててどっかの女と消えた父親。
許すって方が無理がある。
僕は父をシカトしてそのまま通り過ぎた。
「和也!」
少し離れた場所からあいつが叫んだ。
思わず立ち止まった。
「俺が嫌いか?」
黙って背中を向けたまま僕は聞いていた。
「恨んでるよな。でも仕方なかったんだ・・・。お前たちの事忘れたりしてないし、ず っと考えてた。もう一回お父さんと暮らさないか?」
ぬけぬけと何を言ってるんだこいつは。
こいつが出て行った時の不安、憎しみいろいろなものが湧き出てきた。
「なぁ、和也。」
あいつが僕の肩をたたいた。
「ふざけんなよ!!!勝手に出て行って勝手に戻ってきて一緒に暮らす?馬鹿言ってん じゃねぇよ。お前のせいで母さんだって俺だって裕也だってみんな辛い思いしたんだ よ。俺たちはお前を忘れて生きてんだよ。二度と顔見せんな。」
キレた。
一瞬殺したくなった。
ただ夢中で走った。
とにかくその場から立ち去りたかった。

出て行く前の父はとても好きだった。
優しくて面白くて休日が楽しみだった。
だからこそ父が出て行った時の辛さは誰よりも大きかった。
誰よりも泣いて誰よりも探し回った。
「お父さんは?」
そうやって何回も母さんを困らせた。
そんな父だからこそ、今更現れてあんなセリフを吐いたことが許せない。
僕は走りながら泣いていた。
なんの涙かも分からずに僕は走っていた。

夜、何度もあのシワシワの顔が出てきた。
休日は色々なところに連れて行ってくれた思い出、忘れかけていた思い出も全部思い出していく。
ボーリング場、ビリヤード場、ゴルフの打ちっぱなし、家の前でやったキャッチボール、一緒に買いに行った母さんへの誕生日プレゼント・・・・・
小学校までの思い出にはほとんどが父との思い出ばかりだ。
ただあいつは僕の中学受験の終わりとともに消えた。
僕はショックで何もすることができなくなり、成績も落ち、友達もつるまず、学校にも行かなくなった。