僕は彼女に優しく微笑むと、頭の中で指令を出す。




飛べ。






とたん、『妖精』が飛び上がるのと同時に、強い風が吹き上がり、それに乗るようにして僕の体が浮かぶ。



僕はさらに指令を出し、どんどんどんどん上へ登る。


地面がどんどん離れて行って、あるところで僕は止まる。

そして僕は目を閉じると、飛ぶという指令をゆるめる。


とたんに僕の体は落下を始める。


耳の横を風がかけぬけ、嫌な浮遊感が、僕の腹部を襲うが、気にしない。




どんどん落下し、木にぶつかりかけた、そのとき。



また僕は『妖精』に指令を出し、ふわり、と風が体をつつむ。

ゆっくりと、枝に下りる。




僕はここのところ、暇になると、こうして『妖精』と交流するようにしていた。


『妖精』と通じ合っている間は、なぜか『選ばれしヒト』の声が小さくなる。

どうやら魔術と『呪い』は、合反するものであるらしい。




そこで僕は『妖精』を消す。


その姿が細かい霧の魔力にぱっと分散し、消える。




また『選ばれしヒト』が騒ぎ出す。



だがもう、以前ほど感情が消えるような感覚はなくなった。

もう感情は残っていないのかもしれない。


それにすら、何も感じない。


妙な感じだ。





と、そこで。


「レイ。」


と呼ばれる。
ファギヌの声だ。

だが声しかしない。


僕が森の奥に行ったときは、カリアもファギヌも、この魔術を使って僕を呼ぶ。

空気を振動させる魔術。



「ごはんだって。帰っておいで。」


また聞こえる。

それに僕は、同じ魔術で答える。


それから僕は本を左手に持って、右手だけで木から降りると、小屋に向かう。


穏やかな風が吹き、ここ最近伸びてきたプラチナの色をした髪が、さらさらとなびく。



それに一度、んーっと伸びをして、

「今日は気持ち良いなあ。」


適当な感情を口にして。



悲しく笑った。