青年は小屋の場所を知っている。
私たちは其処まで一言も発さずにただ一向歩いた。
青年が歩くたびに、その振動で檜山さんからは大量の血が流れだす。
いくら死なないとは言え、その姿は耐えられるものではない。
安全になって今更、どうしようもないほどの後悔が生まれた。
小屋の目の前に着くと青年は檜山さんを下ろし、私に連れていくように促した。
「…少し離れたところで待っている。」
有無を言わせない態度に黙って頷くと、檜山さんを持ちながら玄関の戸を開けた。
入ってきたことに皆気付いたようで、由実が一番に駆け付けてきた。
「……希咲ちゃんっ!!」
私の姿を見るとヒュッと息と詰まらせ目を見開いた。
そして、私が必死に支えている檜山さんに気づくと涙をボロボロと零し出した。
「な、なんで…!?」
「話は後から…今は檜山さんを何処かに寝かせないと。」
由実に手伝ってもらって、空いている部屋に檜山さんを寝かせた。
その間、由実は田代さんに事情を伝え、夕君には気付かれないように配慮する。
幸い玄関に走ってこなかったのは、何かあった時のために田代さんが夕君に言っていたかららしい。
檜山さんを寝かせ今ある物で応急処置をした後、田代さんが部屋にやってきた。
そして、今までの経緯を話す。
由実と田代さんは息を飲んでその一つ一つの言葉を聞いていた。
自己再生能力の話になると少し表情が柔らかくなったが、青年の話を伝えると再び重い顔付きになる。
話が終わると、田代さんが口を開く。
「…その人のこと本当に信用してもいいの?」
確かに、安易に信用はしてはいけない。
しかし、この状況で知識のある者との接触は、此れを逃せばもうないかもしれない。
それに、これを断った時の反応が気になる。
化け物を容易に倒すことができる青年にとって、私たちを惨殺することは容易いであろう。
田代さんも其のことが引っ掛かっているようで、無理に私を止める気配はない。
由実は真っ青になった唇をギュッと噛み締めている。
