――――ザクッ





「はぁ…はぁ…。」



―――気が付けば化け物の躰に小太刀を突き刺していた。



化け物は檜山さんに集中していたため、反応が遅れ私に対応できなかった。

運良くそれは眼球の周りの柔らかい部分に深く入り、化け物はビクリと大きく反応するとその場を退いた。

化け物は小太刀が躰に刺さったまま、黒い体液を流しながら悶え苦しむようにその場を這いずりまわる。

それを横目で見ながら檜山さんに声をかける。




「檜山さんっ!!大丈夫ですか!?」

「…っん。」


呻きながらも辛うじて反応する。

檜山さんを触ると手に血がベッタリと付いた。



「…早く行け。」


こんな状況になっても人のことを気にする。
しかし、私はそれを頑なに拒否した。


「嫌です!!一緒に帰りますっ!!」


その間化け物は少しづつ体制を整えていく。

私は檜山さんの傍から一向に動く意思はない。






「…いい加減にしろ。」

吐息のような弱々しい声で忠告した後、檜山さんは意識を失った。



一瞬死んでしまったのかと思ったが、息は微かにしている。

しかし、このままでは死ぬのも時間の問題だ。
兎に角一刻も早く戻らなければ…




目の前の化け物は私たちを見逃す気はない。

私は檜山さんの手からするりと刀を抜いた。




こんな大事なときでさえ、恐怖で視界を歪ませてしまう自分が悔しい。