――――そう思った瞬間、檜山さんの方向へ黒い何かが襲ってきた。


ザシュッと音がして、檜山さんから左腕から血が流れる。


「―――ぐっ。」


檜山さんは遅れて刀を取り出し、自らを攻撃したものの方に刃先を抜けた。

檜山さんを襲ってきたものは今まで見たことのない生き物、いや、化け物だった。


大きさは私たちよりも少し小さいが、黒いぼってりとした胴体部には無数の眼球があり、その間には手とも足とも区別のつかぬものが生えている。
口や鼻は見受けられない。

眼球はあらゆる方向に動かされ、その中の二つだけはそれぞれ私と檜山さんを見つめている。

―――強い。

襲ってきた時の動きの速さから、建物の時の人形とは比べ物にならないほどだと分かる。


なぜ急に…


あの建物の行き帰りの途中ではこのようなものに全く会わないどころか、気配さえ感じなかったのに。


この場所が危なかったのだろうか。


化け物は一度攻撃してきたものの今は様子を見ているのか、私たちの周りをゆっくりと観察するように回っていく。


それに合わせるように私たちも方向を変える。


檜山さんは先程の負傷で左腕に力が入らないようで、次第に顔色が悪くなってきている。