刀を鞘にしまうともう人の形に見えないモノはそのままにして、元々進んでいた方向に再び向いて進み出す。

赤紫の着物は血で赤黒く染まり、過ぎると同時に地を赤に染めながら緩慢な動きで歩く。

――――早く行ってっ!!

私は震えながらこのまま過ぎ去ってくれと心の中で必死に願う。
きっと、見つかれば命はない。

女の人の後ろ姿を瞬きせずにじっと見続ける。


ドクッ

ドクッ




心臓の鼓動音だけが聞こえる中、少しずつ小さくなる後ろ姿。

幸いなことに、女の人は振り返ることなくそのまま森の奥に消えていった。


―――ふっ


女の人の気配がなくなると途端に力が抜けて其の場に腰を落とす。

檜山さんは周りを確認すると、そんな私に手を貸してくれた後、早くこの場を立ち去ろうと提案する。

確かにアレを見て、此処が危険だと分かった以上長居は禁物だ。

再び自分を奮い立たせて気を張る。


「…行くぞ。」



女の人に会うまではそこまで気にしなかったが、今は全てが怪しく見えてしまう。

少しの木々のざわめきでさえビクッと怯える。

小屋まではそれ程遠くはないものの、此処からは全く見えない。


無防備に走ることはせず、周りに注意を図りながら足早に元来た道を帰る。

震える手をグッと握りしめ、恐怖を出来るだけ緩和させる。


檜山さんも神経質になっているようで、周りを鋭い視線で調べている。




そんな中、





ズッ


何処かで音がした。