「おねぇちゃんがもしかして…希咲ちゃん?」


私よりずっと小さな男の子。
ことんと首を傾げる姿がなんとも可愛らしい。


この子は居間で寝ていた…


「お、夕。起きたのか。」

「うん。」


檜山さんが問いかけると、夕君はゆっくりとした動作で頷いた。

夕君の目線は私に向けられたままで。

私は夕君の目線の高さに合わせるようにしゃがんで、

「希咲です。よろしく。」

そういって優しく頭をなでると、夕君は擽ったそうに目を細める。



「…夢の中でもたくさんの人と仲良くなれちゃった。」



嬉しそうに言う夕君に、顔が強張る。
しかし、一瞬で状況を把握し、表情を戻す。


夕君はどうやら此処を夢の中だと思っているらしい。

視線を二人に向けると、薄く頷く動作を見せた。


確かに、夕君にはこの現状は辛過ぎる。

夢であるとしたほうが何かと都合がいい。


夕君を見ると、なにやら少し考えている。


「でも、なんで夢なのに寝れるのかな?」


夕君は小学五年生だと言っていた。

そういう矛盾に疑問を持つ年頃でもあるだろう。


ちょっとした疑問なのにドキリとする。

由実も戸惑っている様子だ。



一方檜山さんは飄々とした顔で、

「なんでそんなことに疑問を持つんだ?

夢の中では空も飛べるし、寝れるし、何でもありじゃねぇ?」


さもなんでもないかのように言うから、夕君も納得したように頷く。


「じゃあ、僕おじちゃんのところに行って来るねぇ!」

そう言って夕君は奥の方に消えていった。

おじちゃんとは、きっと田代さんのことだろう。



夕君の姿が見えなくなると、檜山さんは、

「動揺してんじゃねぇよ。…いつ感づかれるかわからねぇ。」

それだけ言うと、奥に消えていった。

私たちはその言葉をしっかりと心にとどめて、居間に向かった。