「後、こんな状況だからしかたねぇのは分かるけど。…あんだけ近くに居て落ちないのは珍しいな。」


そういえば、檜山さんは有名なバンドのヴォーカルで、女性誌のランキングでも一二を争うほど端整な顔をしている。

そんな人に抱きしめられたなんて、今思えば驚きだ。

こんな状況でなかったら緊張してしまっただろう。



でも、私はその言葉に対し、

「…そうですか。檜山さん格好いいですもんね。」

からかわれた気がして、嫌みったらしく言うと、檜山さんはおかしそうに笑う。




「お前みたいな奴が傍にいると男は強くなるだろうな。」

「それよりも私自身が強くなりたいです。」

きっぱり言うと、檜山さんは徐に手を私の頭に載せた。


「……十分だ。」


檜山さんはそう言うと、行くか、と森の奥に足を進めた。

私も檜山さんの大きな歩幅に合わせて早足でその隣を歩いた。



何も得られなかったと思ったが、私の手には建物の二階で見つけた書物が握られている。



檜山さん直接聞いたわけではないが、これに手がかりがあるのだろう。

きっと、小屋に着いたら説明するはずだ。




私は帰り道にも色々考えていた。

【chapter.2 -end-】