「―――希咲ちゃんってば!!」

「うぁっ!!!」

考え事に集中してしまい、由実が声をかけているのに全く気づかなかったらしい。
しびれを切らした由実に軽く睨まれてしまった。

「……ごめん。」

「着いたよ。」

私がすかさず謝ると、由実は表情を和らげた。

「…え。」

思ったよりかなり早く着いた。

「山道にいつ入ったっけ?」

そんな言葉をポツリと漏らすと、由実は呆れたように笑う。

「もう、希咲ちゃんったら。私たち駅から三十分も歩いてたのに一言も喋らないんだもん。
いつもそうやって考え事してるとそれに集中しちゃうのは知ってるけど、今日は私との旅行だよ?」

由実はズイっと私の顔を覗き込む。
笑っているけど、なんか怖いぞ…。

「……以後気をつけます。」

そう言って、敬礼のポーズをすれば、

「…………うんっ!!」

と、とびっきりの笑顔が返ってきた。
………昔から思っているが、その笑顔をクラスの男子に使ったらどうなるんだろう。

由実は凄く可愛いと思う。身長は低く、目はぱっちりとしていて、大人しい。男子からすると守ってあげたくなるのではないだろうか。

うーん、と唸りながら由実を見ると、

「また考え事?……もう知らないからね。」

「え…ち、違うよ!!」

慌てて首を横に振った。


そんなこんなで着いたにも関わらず、家の前で話していた私たちはようやく家に入ることにした。