もう1度、
「逃げたいからしただけだ」

陽平は自分に言い聞かせるように言った。

そう言った彼のその表情は、どこか悲しそうだった。

そんな彼の様子に、千広はさらに戸惑った。

どうしてそんなにも悲しそうに言うのだろうか?

どうしてそんなにも悲しそうな顔をするのだろうか?

思いもよらない展開に、もはや何も言い返すことができなかった。

自分の当の目的すら忘れてしまいそうだ。

千広は戸惑って、崩れそうになっていた自分の気持ちをを整えた。

またごまかされたら、今度こそシャレにならない。

被害者はこっちなんだから。

千広は小さく深呼吸をして、
「…とにかく、離婚してください。

今すぐサインを書いてください」

陽平の前に、もう1度離婚届を突きつけた。