嘘婚―ウソコン―

その驚いた顔を千広はチラリと一瞥した後、何事もなかったかのように再び帰り支度を始めた。

荷物を全てカバンの中に入れると、それを肩にかけた。

マグカップをカウンターに返すと、千広は早足にスターバックスを出たのだった。

スターバックスを出ても、千広の早足の速度は落ちなかった。

ズンズンと、とにかく早足で歩いた。

歩くたびに顔に当たる冷たい風が痛い。

だけど、ココアと暖房で温まった躰にこの冷たい風はちょうどよかった。

――小田切と寝たから

――小田切のお気に入りになったから

――財閥の力

亀山と寺脇の2人が言った陽平への悪口が、千広の頭の中をグルグル回っていた。

「何なのよ!」

千広は叫んだ。

悲鳴のような千広の叫び声に周囲が驚いたと言うように視線を向けたが、千広は無視をして家路を急いだ。