嘘婚―ウソコン―

そこにいたのは、
「…えっ?」

千広は戸惑った。

目の前にいるその人物は男なのか女なのか、よくわからなかった。

身長は、陽平と同じくらいだろうか?

目深にかぶっている黒いハットのせいで顔が見えない。

「あの…どちら様ですか?」

恐る恐る千広が尋ねると、その人物は目深にかぶっているハットを少しあげた。

美しいその顔立ちに、ドキッと自分の心臓が大きく鳴ったことを千広は感じた。

大きな瞳に縁取られた長いまつ毛。

白玉のような白い肌。

小ぶりな鼻。

真っ赤な唇。

ああ、女性だと千広は思った。

「こんにちわ」

ソプラノの美しい声が振ってきたのと同時に、彼女は微笑んだ。

「あ…こんにちわ…」

千広は返した。