嘘婚―ウソコン―

緊張していない。

怖いだけだ。

千広は声に出してそう言いたかったが、唇が動いてくれない。

「それに…あなた、陽平の事務所で働いていますよね?」

きた!

千広は身構えた。

「――ば…」

「バ?」

「ば…ば…ば…」

機関銃かと、千広は心の中でツッコミを入れた。

バイトとして働いていると言いたいが、唇と声が動いてくれない。

頭の中では何度も命令しているのに、それができない。

友美は息を吐くと、
「暑いし、セミもうるさいからどこかで話さない?」
と、言った。