そう自分に言い聞かせて、千広は床のうえに腰を下ろした。

気にする必要なんてないはずだ。

陽平のことなんて気にしなくてもいい。

なのに、心がザワつき始めているのは何故だろう?

気にしなくてもいいはずなのに。

ザワつかなくてもいいはずなのに。

どうせ自分たちは、紙のうえで成り立っている夫婦なのだから――。


すずめが鳴いている声に千広は気がついた。

目を開けると、見知らぬ天井が視界に入った。

見知らぬ場所に驚いた千広だったが、ここが陽平の事務所だと言うことをすぐに思い出した。

どうやら、いつの間にか眠ってしまったらしい。

千広は躰を起こすと、陽平に視線を向けた。

「――あれ?」

そこで寝ているはずの陽平がいなかった。