(――意外といい人なんだ)

勝手に戸籍を盗んだうえに、彼は自分を妻にした。

その正体は財閥の御曹司…けど、いつも飄々としてて、ごまかされるのは当たり前だ。

正確に言うなら、煙に巻かれると言う表現の方が正しい。

でも今日、陽平の意外な一面を知った。

自分がバイト先をクビになると言ったとたん、陽平は自分の事務所で働くことを勧めてくれたのだ。

(夫が妻を助けるのは当然だとか夫婦としての掟に従ったとか言っているけど、彼も意外といい人なんだ)
と、千広は思った。

「時給はいくらだった?」

陽平が聞いた。

「900円、でしたけど…」

何で時給のことを聞いてきたのだろうか?

そもそも、一体何の意味があって聞いてきたのか。

首を傾げた千広に、
「じゃあ、俺は1万出す」

陽平は宣言した。

その宣言に、
「ええっ!?」

千広はまた耳を疑った。