こんな男に考える時間なんかあげなくていいのに。

こんな男のために自分が待たなくていいのに。

いろいろな意味で笑えた。

千広が返事したことを確認した後、
「じゃ」

陽平が背中を見せた。

だんだんと小さくなる背中を見送った後、千広は息を吐いた。

それから空を見あげると、煌々と照らす銀色の満月と目があった。

(月に目がある訳ないか…)

そんなことを思って、千広は自嘲気味に笑った。

笑った後、
「――あの人は、何を考えているの…?」
と、千広は呟いた。

陽平は、わからない。

わからないから、こうして困っている。

千広はそっと、月に願った。

(――少しでもいいから、彼の気持ちを知りたい)

満月に向かって、千広はそう願った。