天使のキス。

「やめとけよ…」


健ちゃんは、寝起きのちょっとかすれた小さな声で、あたしを制した。


「親に泣き言言えない分、愛里のお母さんに聞いて欲しいんだろ。
言わせてやれよ」


「…ん」


そういえば、沙耶の親はけっこう厳しくて、沙耶とは小さい頃からよく衝突していて――…


その度に沙耶は家出をして、あたしの家に泊まってた。


もちろん今回、沙耶が出産することにも猛反対していて、沙耶は家で両親と口をきいていないらしい。


そんな厳しすぎる両親への反発から、沙耶は遊びまわるようになったと、昔、健ちゃんは分析していた。


「わかった。
寝たふりしとく。
でも、健ちゃん…
…よくわかったね、沙耶の気持ち」


あたしがこっそり囁くと、健ちゃんは寂しそうに微笑んだ。