「奏ちゃん?何かあったの?」

電話を貰って、嬉しくない訳がない。
俺は、必死に平静を装って話した。

『あ、いえ。何事もなく家に着きました。もし、気に掛けて頂いていたままでしたら、心苦しいなと思いまして。』

奏ちゃんの話し方は、昨日今日覚えた様な敬語ではない。
言葉の端々に、育ちの良さを伺える。

「何事も無くって良かった。わざわざ電話してくれてありがとう。」

俺がタバコを吸い終わる間に、家に着いたという事は、本当に家が近いのだろう。

『いえ。こちらこそ、先程は助けて頂いてありがとうございました。』

奏ちゃんの声が、耳元で心地良く響く。

これで、関係が終わるのは勿体無いよな。

俺の視線は、空を仰いだ。