仕事に戻ろうと、本屋へ向かって歩き出すと、ジーンズのポケットに入れていた携帯電話が震えているのに気が付いた。

電話の着信自体、久しぶりの様な気がする。

誰だろうと何気なくディスプレイを見ると、知らない番号が表示されていた。

いつもなら、そのまま電話に出ないのだが、ハッとした俺は急いで通話ボタンを押した。

「もしもし?」

俺は、ゆっくりとそう言った。

『もしもし。澤口良平さんですか?奏です。』

その声に、折角心の奥底に押し込めた何かが溢れ出すのが分かった。

予想通り、電話の主は奏ちゃんだった。